IMSI(強拡大顕微鏡を用いた形態学的精子選択術・顕微授精)について
IMSI(intracytoplasmic morphologically selected sperm injection・強拡大顕微鏡を用いた形態学的精子選択術)は、ICSI(顕微授精)を行う際の先進技術です。通常のICSIでは約400倍の顕微鏡で精子を選びますが、IMSIでは1000~12000倍で精子の形態観察を行い、形態良好な精子を選択し、ICSIに用いる方法(400倍の観察では精子の頭部内までは観察出来ません。1000倍を超える高倍率に上げることによって精子の頭部内まで観察が可能となり、精子頭部内に空胞を有する奇形精子を省くことを目的とする。ただし近年は顕微鏡の性能事態が上がってきており400倍でもある程度判別可能なことも多いそう…)です。
IMSIは、その有効性が議論され続けておりますが、下記の論文・私見より、胚培養成績が思わしくない方にとっては一定の有効性はあると考えています。そのため、当院では通常のICSIで難渋されている方には推奨しております。
引用論文:Fertil Steril 2013; 100: 62
奇形精子症群とICSI反復不成功群に対して、ICSIとIMSIをランダムに割り付けて比較した。奇形精子症群での出産率は、ICSI群20%に対して、IMSI群38%であり、有意に高くなった。一方、ICSI反復不成功群では有意差はなかった。
この論文からは、一見、「奇形精子症(この論文では正常形態精子10%以下)では有効だが、ICSI反復不成功群では無効」ということになります。
一方で視点を変えると、奇形精子症には有効というのは、奇形精子を選択することは良くないというのは事実であると言えそうです。正常形態精子が10%以下の場合、90%の確率で奇形精子を選択してしまうのことが悪い結果に繋がっているといえます。
また、ICSI反復不成功の方々のIMSI所見をみて気付くのは、「同じ男性の精液所見でも空胞精子が多い時と少ない時があり一定していない」ということです。同じ男性でも奇形精子が80%の時も10%の時もあったりします。おそらくIMSIは奇形精子率が80%の時は有効な傾向で、奇形精子率が20%の時は無効な傾向でしょう。論文内の反復ICSI群では、ランダムで選択した精子が奇形精子である割合が最終結果にどの程度の影響を与えるという論議になるので、奇形率が様々なICSI反復不成功群をひとくくりにすることも実は無理があるように考えられます(1回の採卵で奇形精子と正常精子を用いた場合に有意差があるかの検証ができたら完璧だと思いますが、わざわざ奇形精子を使用するという研究に参加したいと考える人は皆無でしょうから検証が成り立ちません)。
毎回の奇形精子割合は変動すれど、IMSIで確実に正常形態精子を選択することに意味はあると考えるので(例え奇形率が10%でも1/10で奇形精子を選択するのだから)、当院では反復不成功の方には少しでも改善の余地をという意味を含めて推奨しています。